地域の魅力を活かしたツアーを作りたいけれど、何から始めたらいいのかわからない。そんな声を、私は観光関係者の方からよく耳にします。今は団体旅行よりも、現地でしか味わえない体験を重視する「着地型観光」が注目を集めています。成功の鍵は、やはり企画力です。ここでは、実際に成功した事例を紐解きながら、誰でも実践できる企画のコツをお伝えします。
着地型観光とは？従来の旅行との違い
着地型観光は、旅行者が現地に到着してから、その土地ならではの文化や自然、人と触れ合うことを目的とする旅行形態です。昔ながらのパッケージツアーのように、出発地から宿泊・交通まで全部セットという形とは異なります。
例えば、北海道に行ってから現地のガイドと一緒に森を散策し、野生動物を観察する──そんな自由度の高い旅が着地型観光です。旅行者が興味に合わせて現地で体験を選べるため、地域経済への直接的な効果も期待できます。
なぜ今、着地型観光が求められているのか
近年の旅行者は、有名スポットの写真よりも、その地域ならではのストーリーや感動を求めています。SNSの普及で「映える」写真だけでは満足できず、記憶に残る経験が重視されるようになりました。
着地型観光は、その土地の日常や隠れた魅力を深く掘り下げ、特別な体験を提供できます。例えば、地元の人しか知らない漁港で朝獲れの魚を捌く体験は、その場でしか味わえない特別な時間です。
成功事例から学ぶ着地型観光の可能性
1. 地域の人と暮らす「田舎体験ツアー」
ある農村地域では、観光資源が少ないことを逆手に取り、地元の暮らしそのものを体験してもらうツアーを企画しました。農作業を一緒にしたり、古民家で郷土料理を作ったり。観光客ではなく“地域の一員”として迎えられることで、参加者は深い感動を覚え、毎年訪れるリピーターになっています。
2. 歴史を深堀りする「ディープガイドツアー」
歴史ある町では、地元出身の語り部が案内役となり、教科書に載らないエピソードや裏路地の物語を紹介するツアーを開催。普段は立ち入れない場所や、地域の人しか知らない逸話が、旅行者の心を掴みました。案内人の存在が、旅の価値を何倍にも高めています。
3. 五感で楽しむ「食文化体験」
農業が盛んな地域では、収穫から調理までを体験する食のツアーを実施。畑で採れたばかりの野菜の香りや、土の感触、仲間と作った料理の味わいは、何年経っても忘れられない思い出になります。五感を使った体験は、地域食材の価値を直感的に伝える力があります。
成功事例に共通する3つの要素
1. 地域資源の再発見
地元の人には当たり前の風景や文化も、外の人には新鮮です。まずは自然・歴史・文化・食・人の魅力を洗い出し、それぞれのストーリーを深堀りします。
2. 地域住民との共創
企画段階から地域の人を巻き込むことが大切です。役割分担を決め、一緒に作り上げることで温かみのあるツアーになり、参加者の心を動かします。
3. ストーリーの付加
体験の背景にある物語を伝えることで、旅は一層特別になります。「なぜこのツアーが生まれたのか」を語ることが、参加者の心に深く残ります。
プロが実践する着地型観光企画の5ステップ
情報発信とPR戦略
SNSやWebサイトで魅力と背景のストーリーを発信し、共感を呼びます。
ターゲットを明確化
誰に、どんな旅を届けたいのかを具体的に設定します。
地域資源を掘り起こしテーマ設定
ターゲットの興味に合わせ、唯一無二のテーマを作ります。
ツアー構成を設計
訪れる場所・体験内容・交流の流れを緩急をつけて組み立てます。
地域の人を巻き込む
案内役や講師、食事提供など役割を明確にし、協力体制を築きます。
着地型観光を成功させるための心構え
私は、着地型観光の企画をする時に「いきなり大規模」は避けるようにしています。初めから大人数のイベントを企画すると、準備や集客の負担が大きく、途中で行き詰まることもあります。まずは少人数向けのガイドツアーや、半日だけ参加できる体験など、小さな企画から始めるのがおすすめです。小さな成功を積み重ねると、自信もつき、次の大きな企画へスムーズに進めます。
失敗も避けられません。例えば、思ったほど集客できなかったり、お客様から改善要望が寄せられることもあります。でも、その声は次の成功のための貴重なヒントです。私は、アンケートや直接の会話から得た感想を必ず次の企画に反映させています。改善を重ねるほど、参加者の満足度は上がっていきます。
そして、最も大切なのは「地域のファンを増やす視点」です。一度きりの旅行で終わるのではなく、「また来たい」「友達にも紹介したい」と思ってもらうことが、地域活性化につながります。感動を与える体験や、人との温かい交流があれば、リピーターやSNSでの発信者になってくれる人も増えます。お客様をただの旅行者ではなく、地域を応援してくれる仲間として迎える意識が重要です。
まとめ
着地型観光の成功は、特別な観光資源ではなく、地域の日常に隠れた魅力を見つけることから始まります。企画の流れは、ターゲット設定 → 地域資源の掘り起こし → 住民の巻き込み → ストーリー作り、という順番が効果的です。小さな一歩から始め、失敗を恐れずに改善を続けることで、地域の魅力は磨かれていきます。
着地型観光は、単なる旅行ではなく、地域を元気にする仕組みです。人の温かさや日常の営みを丁寧に企画へ落とし込み、訪れた人の心に残る体験を提供しましょう。こうした取り組みを続けることが、地域にしかない価値を全国へ発信する第一歩となります。
Q&A
Q1. 着地型観光と体験型観光の違いは？
体験型観光は「特定の体験」自体に焦点を当てますが、着地型観光は文化・自然・人との交流など、現地での滞在全体を重視します。
Q2. 小さな地域でも成功できますか？
はい。大都市にはない日常や人との触れ合いこそ、小さな地域の最大の魅力です。規模よりも「その地域だけの価値」を見つけることが成功の鍵です。
Q3. 企画はどこに相談すればいいですか？
地元の観光協会やDMO（観光地域づくり法人）、地域活性化を専門とするコンサルタントに相談するのが一般的です。多くの地域で、企画や運営を支援する団体があります。
